特集/コラム

【選ばれし者たち】2008-03-21

業界の寡占化をいち早く予測し、個人塾経営から静岡県を中心に独立校舎200校を達成−(秀英予備校 社長 渡辺 武さん)

1948年生まれ。磐田郡豊岡村(現、磐田市)出身。1977年静岡市内に個人塾を創業後、業界の寡占化(少数のトップ企業が市場を支配する状態)を睨み、完全独自設計の独立校舎を次々に設立。現在では200校を達成。2002年に業界初の東京証券取引所第1部上場を果たす。また業界では珍しく、正社員の専任教師体制(小中学部では100%専任教師)を取り、より高品質な授業を目指している。2007年から「秀英BBS(ブロードバンドスクール)」事業を立ち上げ、Webを使っての授業内容の復習や、遠方で通えない生徒の為の新しい教育コンテンツを開発。更に旺文社の協力で社会人までターゲットを広げた「英検Web講座」も開設し、ヤマダ電機との共同開発で有害サイトへの接続をブロックできるオリジナルパソコンも発売している。現在社員数は900名以上、生徒数は約37,000人。

「人に影響を与る仕事がしたい」−営業を辞めて教師を目指した

社長になられるまでは何をされていたのですか。

大学卒業後、就職活動をしてたった一つだけ受かった会社で営業をやっていました。営業職は、「知恵と工夫と体力」という感じでした。営業成績を上げ、社内発表をしてもらうことは気分が良かったのですが、次第に「もっと人に影響を与えられる仕事がしたい」と思えてきたのです。
そこで選んだのが学校の先生でした。教員免許を持っていなかったので、通信教育で勉強をして教員採用試験を受けました。しかし、3年間地元で非常勤講師をやりながら挑戦したのですが、教員採用試験にはなかなか受かりませんでした。落ち込んでいる時にふと頭に浮かんだのが、自分が中学の時通っていた塾の先生でした。その先生は、元貿易会社の社員だった方で、学校の先生よりはるかに英語の能力がありました。私はその先生から、中学校の授業よりとても濃い内容の授業を受けたことを思い出したのです。そこから「先生は学校だけじゃない、塾の先生になろう」と思い、地元で個人塾を始めることにしたのです。

「収益のほとんどを設備投資に」−地元での地盤をいち早く築いた

−個人で塾をスタートされてからはどうでしたか。

既に町の中心には大きな塾があったので、初めからそこと競って頑張る気にはとてもなれませんでした。まず学力レベルがそれほど高くない地域で塾の実績を上げようと思い、静岡市のはずれで個人塾をスタートさせました。当時、塾に来る生徒の3分の1は不良でしたね(笑)。そんな生徒を相手に授業するのだから、鍛えられましたよ。でもそのうち、本気で進学を目指す勉学意欲のある生徒が、次々に塾を辞めていくようになってしまったのです。ある生徒に「私は自分のお小遣いをはたいて来ているのだから、あんな不良と一緒に授業を受けたくない。ちゃんとした環境で学びたい」と言われたことがきっかけで、「ここは塾なのだから、生徒指導のようなことやっても仕方がない。面談と学力テストをしよう」と思いました。それから、ある程度の基礎学力と集団授業を受けられる精神性があるかどうかの入塾試験をするようになりました。
こうして初年度17人だった生徒数は、2年目に100人、3年で4500人と順調に集まっていき、その収益のほとんどを設備投資に回しました。

−設備投資に回したのはなぜですか。

学習塾の未来は、大手による寡占化争いになると思ったからです。寡占化によって静岡県にもいずれ東京の大手学習塾がやって来るだろうと考えました。だからそれより先に、会社の地盤を築こうと思ったのです。自らが業界大手になるにはどうしたらよいかを考え、組織化するために1年ごとに急ピッチで校舎を増やしていきました。こうして創業5年目には独立校舎を持つようになりました。最初は主婦や大学生のアルバイトだった先生も、広告を出して正社員を採用するようになり、中学生の時に習った先生のような実力のある先生をたくさん作るために、社員教育にも力を入れました。

東北地域でのM&Aで全国展開を加速

−昨年福島県の学習塾を買収されたのも寡占化の戦略ですか。

買収目的の1つは、「合格実績ナンバーワンの時間を買う」ことです。実績というのは、すぐに出ませんから新たに作ろうと思うと56年はかかります。しかし、地方の合格実績ナンバーワンの学習塾と合併することにより、瞬間にナンバーワンの実績を手に入れることができるのです。
そしてもう1つは、「人材の確保」です。合併先には45人程の教師が在職しています。人材を確保するために多額な費用がかかる時代に、実力のある経験者を獲得できるのはとても有益なことです。しかし、合併される側の社員は不安だと思います。「自分は高学歴ではないけれど、大丈夫だろうか」「お給料、休暇はどうなるのか」など、不安を解消するためにも、まずはお互いによく話し合う時間を持ち、弊社と相手先でフィフティ・フィフティのプロジェクトチームなどを作って少しずつ企業統合を進めていきたいと思っています。

民間給料続減と「ゆとり教育」が招いた厳しい現状


−予備校の現状はどうですか。

国税局の実態統計調査では、民間企業に勤める人の年収が9年連続で減少しているそうです。これは保護者が厳しい家計をやりくりして、学習塾や予備校に子供を通わせているということで、今より比較的家計に余裕があった10年、15年前とは通ってくる子供のモチベーションが違ってきています。昔は子供をやる気にするために学習の合間に余談をいれたりしながらの授業内容でしたが、今は目標(受験合格)を確実に達成されるための「内容の濃い授業」をしていかなくてはなりません。しかし、その反面では「ゆとり教育」(履修内容の3割削減、完全週5日制)の導入から5年が経ち、生徒の学力低下が深刻になってきています。学ぶ意思があってもついてこられない生徒が続発しているのです。このような生徒たちは、個別指導のある学習塾や予備校に流れてしまい、私塾に通う生徒のうち4割近くもの生徒が個別指導を受けている状況です。そこで、弊社でも昨年8月より個別指導部門を始めて対応しているのですが、こうした時代の流れや変化に対応できる授業内容や教材研究をしていくことが、今の学習塾と予備校に求められていることだと思います。

寡占争いを制し、私塾業界のトップへ


−今後の展開を教えて下さい。

私塾業界はこの23年でトップ数社に絞られ、全国展開を見据えたM&Aの波も広がっていくと思われますが、こうした全国展開は企業の方向性だけでなく社員の働きやすい環境に繋がっていると感じています。現在、就職説明会では「23年後には、皆さんの地元にも事業展開していますから、地元に戻って働くこともできます」とアピールしています。昨年から弊社では、希望エリア以外には転勤させない制度として「エリア採用制度」を実施したのですが、去年の新入社員の約7割が希望している状況でした。いかに多くの人が地元での就職を望んでいるか実感しましたし、この制度がなければ新入社員は半数だったかもしれないですよね。

−名古屋地区はどのように捉えていますか?

愛知県は塾の激戦区で、弊社も小中学部50校舎、大学受験部4校舎を展開しています。これから、まだまだ発展していく名古屋地区に期待感も強く、弊社の主力の地区だと捉えています。全国的には、これからの時期が業界のトップを決めるとても重要な時期だと自覚して、M&Aを円滑に進めながら、また社員の働きやすい環境を確保しつつ全国進出を果たし、業界のトップになって行きたいと思っています。

秀英予備校

聞手:メディアジャパン 
代表取締役 宮崎 敬士
校正:梅田 和代

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