特集

名古屋の台所「柳橋中央市場」をマルナカ社長がご案内!
旬の味覚と現代の食事情〈夏編〉

  • 0

  •  

「柳橋中央市場」と「マルナカ食品センター」

1910(明治43)年、この辺りの万物問屋をまとめた形で開設されたといわれる「柳橋中央市場」。現在、敷地面積4,000坪に約300店舗を擁し、民間市場の中では全国最大級の規模を誇る。そして1969(昭和44)年、市場内に「マルナカ食品センター」が開場。鮮魚をはじめ、干物、貝類、食肉、野菜、乾物、調理器具まで50以上の専門店が出店し、鮨店、料亭、レストランなど、東海三県で5,000人を超える食品関係者が利用する一大センターだ。業務用の卸売がメーンだが、一般客に開かれているのも大きな特徴。歳末の大売り出しや買い物ツアー受け入れをはじめ、マルナカでは見学ツアーも開催している。

『柳橋中央市場のお楽しみ見学ツアー』
柳橋市場を知り尽くした安藤社長が、各店を回りながら市場内を案内する見学ツアー。参加費は、1人1,000円。開催日は毎週金曜と土曜。開始は8時20分から。開催日前日の16時までに予約が必要。問い合わせはホテル「キャッスルプラザ」(名古屋市中村区名駅4、TEL 052-582-2121)フロントまで。

開店は早朝4時から。午前10時ごろには店が閉まってしまうので、早起きして出かけたい。

一般に開かれた民間市場

さて本題に入る前に、「中央卸売市場」と「民間市場」の違いはご存じだろうか。「中央卸売市場」とは、農林水産大臣の認可を受けて開設される卸売市場のことで、都道府県人口20万人以上の地方自治体(市)、または地方自治体(市)を含む事務組合が開設者となる。名古屋市の場合は、青果物や水産物を扱う名古屋市熱田区の「本場」と西春日井郡豊山町の「北部市場」、そして食肉を扱う名古屋市港区の「南部市場」の3市場。認可を受けた特定の卸売業者や仲卸業者、売買参加者のみ出入りすることができ、私たちがスーパーマーケットで目にする食材などは、多くのものがここから出荷されている。

対して「民間市場」は、文字通り民間団体が運営する市場のこと。民間市場である柳橋中央市場では、入場フリー、一流レストラン・料亭で使用されるような確かな品を、卸売会社を通さずに個人が業者からダイレクトに購入できる。つまり、誰もが旬のいい品を、手軽、お値打ち、そしていち早く手に入れられるというわけだ。

いい買い物のコツは、“気の合う”店を見つけること

ではいよいよ、安藤社長に市場を案内してもらう。「マルナカ食品センター」内は、メーンの鮮魚コーナー、乾物、野菜、果物、肉、調理道具…と、大まかなジャンルごとに店が固まっている。ただ、スーパーのように商品が整然と並んでいるわけではなく、値段が表示されていないものも多い。慣れないその雰囲気に戸惑う初心者も多いはず。

ズバリ、うまく買い物をするコツとは?「まずは、じっくり回ってみてください。同じ魚コーナーでも、地物のみを扱う店や、全国・海外の鮮魚がそろう店、そして川魚、貝類専門店に至るまで、それぞれに得意分野があるんです」と安藤社長。さすが鮮魚で有名な柳橋、その品ぞろえは目移りしてしまうほど。

でも、これだけ多いと素人はかえって迷ってしまうのでは。「気になったら、とりあえず気軽に話しかけてみて」というのは、南知多・師崎港の魚を扱う「赤羽商店」の店主。「市場にはこれだけの店数があるんだから、話してみれば誰でも必ず1軒や2軒、気の合う店が見つかるはず。仲良くなって何回か足を運ぶようになれば、お値打ちにしてくれたり、親切にしてくれたり。買い物がもっと楽しくなる」。例えば赤羽商店が、手が空いたときに行っている魚をさばくサービス。普段、歳末セールなどの繁忙期には断るが、顔なじみなら…とさばいてくれることも。「要は、売り手と買い手の信頼関係だね」と安藤社長。「売り手は、いつも買ってくれるなじみの客だからサービスするし、買い手の方も、信頼できて親切にしてくれるなじみの店で買う。これがスーパーにはない市場の特徴だよ」。

おいしいものは、プロに聞くのが一番

安藤社長に、旬のおすすめ食材を聞いた。「魚で言うなら、イサキにハモ、アナゴ、マタカ、カマス、アユ、ウナギ、シャコ、シジミ…。野菜なら、エダマメ、トマト、ナス、トウモロコシ…。そりゃ挙げればキリがないけど、養殖か天然か、ハウスか露地か、出始めか盛りか、それに産地によって味や食感、おいしい食べ方も全然違う。やっぱり、店の人に聞くのが一番だね」。

その言葉通り、安藤社長は市場で気になるものを見つける度に「これはどこ産?どうやって食べるとおいしいの?いつものとどう違うの?」と質問づくめに。すると、店の人は「ウナギはやっぱりこの天然モノが肉厚でうまいよ。ちょっと小骨が太いけど、おいしいものは手間がかかるもんさ」。

青果売り場では「これ、塩分を多く含んだ土地で育った三重・きのさきの塩トマト。普通のより小ぶりで値段も高いんだけど、すごく味が濃いって評判でね。いっぺんこれを食べた人は、次から必ずこれを目当てに来るね」。

乾物店では「シイタケのうま味成分を引き出すには、冷たい水で冷蔵庫に1~2晩かけてじっくり戻すのがいいんだ。お湯で戻すなんてめっそうもない。それだけで風味が全然違う」など、次から次へ面白い話が飛び出す。


旬の食材が夏バテを防ぐ!?

ところで料理や食事をするとき、食材の旬をどれだけ意識しているだろうか。スーパーではハウス栽培で一年中同じ野菜が出回り、コンビニの総菜の味は北から南まで同じ味付け。ファストフード店の「野菜サラダ」といえば、常に千切りキャベツにキュウリ、トマト…。そんな現代で育った子どもの中には、地域でとれる食材や、食材の旬、季節に見合った料理の仕方を知らない子も少なくない。旬の食材は、栄養価が高くお値打ちなだけではない。

例えば中国に古代から伝わる食療法「薬膳料理」では、ジメジメした梅雨には、体内にたまった湿気を追い払う効果のあるショウガ、シソ、ミョウガを。暑い夏には、余分な熱を取り除く作用があるとされるキュウリ、ゴーヤー、レタスなどがよく用いられる。これらはすべて初夏~夏に旬を迎える食材。その土地の旬の食材には、その季節に人間の体が必要とする栄養素が多く含まれることが分かっている。地産地消、つまり地元でとれた旬のものを地元で消費することは、ハウス栽培や輸送にかかるエネルギーを減らす環境面での効果だけでなく、健康維持にも大いに役立つというわけだ。

その日限りの貴重な出会いも楽しみ

市場を巡っていると、スーパーではお目にかかれないような珍しい食材に出会うことも多い。取材当日に見つけたのは、黒い斑点のあるヒラメ(非常に貴重なものだそうで、入るそばから売れてしまう)や、「バラフ(別名アイスプラント)」と呼ばれる不思議な食感の野菜など。もちろん、同じものがいつもあるとは限らないが、足を運ぶ度に新しい発見がある。これも市場を訪れる醍醐味の一つだ。

黒い斑点が目印。お得意さんの中には「これが入ったらすぐに連絡してくれ」というプロの料理人が何人もいるとか(写真左)。アフリカ原産の野菜。シャッキリみずみずしい食感はまさに新感覚(写真右)。

本物の食を知ることで意識が変わる

先の「赤羽商店」で、こんな話も聞いた。「生臭い」と魚を嫌っていた子どもが、この市場へ一緒に買い物に来るようになってから急に魚を食べ出したというのだ。しかも1人ではなく、何人もそうした客がいるという。その理由は単に、市場の魚が新鮮でモノがいいだけではないはずだ。

魚のプロと「今日は何がおすすめ?」なんて会話をしながら食材を選び、とれたての生きた魚が目の前でさばかれる。そしてその魚が食卓へ上がる…。確かに、あらかじめパック詰めされた切り身の魚は便利に違いない。だが、市場に足を運び食材を知ることで食べることへの興味が沸き、命をいただくことへの感謝の気持ちも生まれる。何でも「早い、便利、安い」を求め、それが良しとされてきた現代。市場は単なる消費活動の場ではなく、忙しい日々の中で私たちが忘れかけた、大切なことを思い出させてくれる。

マルナカ食品センターマルナカセンタービル本館/名古屋市中村区名駅4-15-2
マルナカ第二ビル/名古屋市中村区名駅4-16-23
TEL 052-581-8111
営業時間は4時~10時ごろ、営業日はホームページ参照

ライターPROFILE食&農ライター 中西沙織(なかにしさおり)
元エリア情報誌の編集&ライター。農業学校を卒業し、現在“食・農・くらし”にまつわる取材、原稿執筆を中心にフリーランスで活動中。

  • はてなブックマークに追加

名駅経済新聞VOTE

名古屋城と言えば?

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース