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シネマスコーレで映画「大地を受け継ぐ」 愛知出身、井上淳一監督が来名

来名した井上淳一監督

来名した井上淳一監督

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 名駅の映画館「シネマスコーレ」(名古屋市中村区椿町8)で2月27日から、映画「大地を受け継ぐ」が公開される。公開に先立ち、来名した井上淳一監督が作品の見どころを語った。

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 同映画は福島県須賀川市を訪れた東京の学生たちが、福島第1原子力発電所から約65キロメートル離れた地で農家を続ける樽川和也さんと母・美津代さん親子の話を聞く姿を収めたドキュメンタリー。和也さんの父・久志さんは原発事故の影響で農作物の出荷停止が決まった翌日に自ら命を絶ち、2人は久志さんや先祖が代々受け継いできた土地で農業を続けている。

 井上監督は愛知県犬山市出身。予備校時代に通い詰めていたシネマスコーレで若松孝二さんに出会い、弟子入りを志願。早稲田大学在学中の若松プロでの勉強、助監督経験を経て1990年に監督デビュー。2013年に初の長編作品となる坂口安吾の小説が原作の映画「戦争と一人の女」を監督した。

 井上監督にとって初めてのドキュメント映画となった同作。「福島に生きる4世代の家族を描いた映画『あいときぼうのまち』で脚本を書いた際、福島の方々を支えて裁判を担当している馬奈木厳太郎弁護士に出会った。4000人の原告団を抱えて行われている裁判が世の中にほとんど伝わっていないことに驚き、福島に住んでいる人たちのさまざまな声を何とか伝えたいと感じた」と話す。

 帰還困難地域の浪江町など、いまだ人の戻れない場所も訪れたが、監督は農業を続ける樽川さん親子を撮ることを選んだ。映画は約90分にわたり、4年間の日々を語る樽川さん親子と、真剣な表情で耳を傾ける学生たちの姿を撮り続けている。

 「浪江町では無人の家に飾られたままのひな人形など、衝撃的な映像を撮れるだろう場所も見てきた。しかし、絶望や怒りとともに自分の作った作物への不安なども話す樽川さんの姿に、一番心を動かされた。樽川さん親子に長期間密着することも、農地を除染したりする場面を撮ることももちろん可能だったが、この声を伝えたいという思いに誠実な映像にした。NHKのドキュメンタリーならば、さまざまな映像を入れて作るだろう。それでは樽川さんが話す姿は数分になってしまうかもしれない。沈黙した時間も含め、樽川さんの言葉の中にある真実や現実をカットしたくなかった」と語る。

 学生たちは映画学校などで募集したメンバーで、どんな反応をするかは全く分からなかったという。「この映画は見た人が樽川さん宅の居間で話を聞いているような気持ちになる作品にしたかった。樽川さんではなく、学生たちの気持ちを追体験できる映像になっている。そのためにも、その一日の中で学生たちが見たものしか撮らないという固い決意を持ってカメラを回した。学生たちは真剣な表情で、衝撃を受けながらもしっかりと思いや質問を言葉にしてくれたので驚いた」と話す。

 最後に監督は「福島から避難している人もいれば、今もその地を耕して暮らしている人もいる。この映画は福島で生きているある一人の象徴的な声だと思う。その声に耳を傾けてほしい。映画を見た人が、大地の記憶や歴史を未来に継承するようになってもらいたいと思う。ぜひ映画館に足を運んでいただけたら」と呼び掛ける。

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