那古野交差点角にあった創業70年以上の「喫茶 たかとり」が6月19日、名駅に「cafe TAKATORI」(名古屋市西区名駅2、TEL 052-541-0188)として移転オープンした。
同店のルーツは深い。1936(昭和11)年、パンの製造販売と一角で喫茶店を営む「高取製パン」が開店。その後、物資統制の影響で小麦の入手が困難になりパンの製造から離れることに。喫茶店営業のほか、パン、アイス、タバコなどの販売を行ってきた。1959(昭和34)年の伊勢湾台風で被害に遭ったことを機に、1961(昭和36)年、当時としては珍しい4階建てのビル「高取ビル」を建設し、レストラン業も営む「喫茶 たかとり」を開業。長年、なじみの近隣住民やサラリーマンに愛されてきたが昨年9月26日、再開発事業のため「高取ビル」は最終営業日を迎えた。
同ビルがあった敷地は現在、5月に竣工した「名古屋プライムセントラルタワー」と「ブリリアタワー名古屋グランスイート」の玄関口となるスペースの一部となった。「cafe TAKATORI」は、「ブリリアタワー名古屋グランスイート」の1階にあたる部分にオープン。店舗面積は26坪で、40席(喫煙席12席)のほか、屋外に4席も設ける。モダンな店内は「新しい建物にも合わせ、4代目(長男)とデザイナーが相談し、デザインを仕上げた」と3代目店主の高取順一さん。「今までの店舗は中2階があったため天井が高かった。その高さは確保したいと思った」といい、高さ3メートルの天井とガラス張りの店舗が開放的な空間を実現している。
メニューには、名古屋の喫茶店らしいラインアップやサービスが並ぶ。目玉メニューは、常連客に「あのメニューは残っている?」とよく聞かれるほど人気の「イタリアンスパゲティー」(750円)。鉄板に溶き卵を敷いた上にスパゲティを乗せる名古屋スタイルで、鉄板はレストラン業でステーキを出していたときのものを活用。「蔵にずっとしまわれていたが、4代目のアイデアでイタリアンスパゲティに使うことに。大きく、重く、年期の入った鉄板」(高取さん)。そのほか、味噌カツセット(850円)、トンカツセット(850円)、スタミナセット(750円)など。7月からは、新しいセットメニュー、サンドイッチ(タマゴ・ハム・ミックス・カツ・BLT)などが加わるという。
開店から11時30分までは「モーニングサービス」として、コーヒーまたは紅茶の注文客に、厚切り半トースト、ゆで卵またはスクランブルエッグ、サラダまたはヨーグルトが付く。15時~16時30分は「おやつタイム」として、すべてのドリンクにプチケーキなど「本日のおやつ」を付ける。主なドリンクメニューは、ブレンドコーヒー(380円)、カフェオーレ(450円)、紅茶(380円)、コーヒーフロート(500円)など。
高取さんは、店主に就くまで25年間サラリーマンをしていた。「全国喫茶組合・副理事長、愛知県喫茶組合・理事長を務める2代目(父)が忙しく店を空けるときも、母が切り盛りしていた。自分も、会社の休みを取れと言われ、手伝いに入っていたもの」と振り返る。2代目が他界したことをきっかけに46歳で「たかとり」を継いだ。現在は、高取さんの妻と、長男とその妻、長女も店に立ち、一家で店を支える。「5代目の候補もいるんですよ。9カ月なもんで、まだわかりませんけどねー」(高取さん)とほおを緩ませる。
名古屋エリアの変貌ぶりについては、「ビルにした当時(1991年ころ)は、名古屋駅まで何もなかった。今は大きなビルが立ち並び、オフィスや飲み屋が増えた」とも。80歳を迎える2代目の妻・高取さえさんは、店舗が移転し場所が変わったことについて、「人生のけじめをつけたのよ」と笑う。「昔は、店の裏に市バスの営業所があり、職員がうちみたいに使ってくれたもんよ。嫁いで60年尽くしてきましたよ。今は5代目となるだろうひ孫の子守りをするのが生きがい。マンションは付加価値がついて住み心地がいい」と笑顔を見せる。
営業時間は7時30分~18時。日曜・祝日定休。