名駅の映画館「ミッドランドスクエアシネマ2」(名古屋市中村区名駅4)で5月26日、映画「海を駆ける」の公開初日舞台あいさつが行われ、主演のディーン・フジオカさんと深田晃司監督が登壇した。
インドネシアのスマトラ島バンダ・アチェでオールロケを行った同映画。海岸で発見された謎の男ラウ(インドネシア語で「海」)が、さまざまな奇跡と事件を起こしていくファンタジー。主人公ラウをフジオカさん、日本からアチェに移住してNPO法人で災害復興の仕事をする女性・貴子を鶴田真由さん、その息子・タカシを太賀さん、貴子らの親戚・サチコを阿部純子さんが演じる。2016年に「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞を受賞した深田監督が、日本、フランス、インドネシアの3カ国共同製作で完成させた最新作で、インドネシア、フランス、中国、台湾での公開も決定している。
上映終了後、満員の客席からの拍手の中、2人が登壇。フジオカさんはインドネシア語で話した後、「今日は皆さんとお会いできて幸せに思う。最後まで楽しんでいってもらえたら」と日本語に訳してあいさつ。同じくインドネシア語のあいさつを考えていた深田監督は、「監督は英語でお願いします」とのフジオカさんの無茶ぶりで、あわてて英語であいさつ。会場は笑顔に包まれた。
フジオカさんはスマトラ島でのロケについて「アチェはジャカルタから飛行機で3時間半くらい掛かる街で、僕は一度も行ったことがなかった。ジャカルタとは文化が違い、津波のこともあり、怖いイメージもあったが、いざ行ってみると優しい人ばかりだった」と振り返る。深田監督は「ジャカルタから撮影機材を5日間かけて輸送するなど苦労もあったが、自然も人も素晴らしかった。インドネシアのスタッフは、真面目に緊張感を持って仕事をやってくれるが、休憩時間になれば誰かが歌い始めて、それがどんどん広がって踊り始める。日本人スタッフも負けずに歌ったが、歌合戦はインドネシアのスタッフに完敗だった。メリハリがあって魅力的な文化だと感じた」と話す。
演じたラウについてフジオカさんは「とても不思議な存在で、監督には最初に人間なのかと質問した。ラウを一部分だけ切り取ると、邪悪な印象になったり、いい人間に見えたりする。全体を通して見ると正義や悪、モラルなどは超越した宇宙の真理のように感じた」と話す。深田監督は「自然が服を着て、たまたま人間の近くに散歩しにきたような、きまぐれなイメージ。いつも皆のそばに何となくいるが、若者たちの人間関係にコミットすることもしない。目的とか善悪とかは基本的に人間社会がつくり出した概念。そういうこととは無縁で、気まぐれにいろいろなことができる存在になればいいと思っていた」と語る。
最後にフジオカさんは「映画を見て、皆さんがどう思ったのかを聞きたい。『#海を駆けてきた』をつけて皆さんの意見、感想を表現してほしい。それがバタフライエフェクトのように、いろいろな国に繋がっていくかもしれない。映画から現実に帰るリハビリだと思って、感想を書き留めてほしい」と呼び掛けた。深田監督は「僕が映画を作る時にいつも気にかけているのは、メッセージを伝えるとか何かを教えるとかではなく、100人いたら100通りに見え方が分かれるものになってほしいということ。入口と出口の高さが違う映画、体の鏡ではなく心の鏡になるような映画が、いい作品だと思っている。監督だからといって映画のことを全部分かっているわけではなく、親と子どもの関係のように、近くにいるけれど分かっていなかったりする。皆さんの感想で、自分はこういう映画を作ったんだと教えてもらえたら、とてもうれしい」と客席を見渡した。