名駅西の映画館「シネマスコーレ」(名古屋市中村区椿町8)で7月13日、映画「こはく」の公開初日舞台あいさつが行われ、横尾初喜監督、主演の井浦新さんが登壇した。
同映画は、幼い頃に突然姿を消した父の姿を求めて長崎の街を捜し歩く兄弟が、家族や愛を知っていくヒューマンドラマ。横尾監督が自らの幼少時代の実体験を基に描いた半自伝的物語で、父の残した工場を受け継いだ弟・亮太を井浦さん、定職に就かず虚言癖のある兄・章一をアキラ100%の芸名で活躍する大橋彰さんが演じた。出演はほかに鶴見辰吾さん、木内みどりさん、遠藤久美子さんら。
上映終了後に2人が登壇すると立ち見も出た満員の客席から大きな拍手が起こった。井浦さんは「若松孝二監督の映画以外では初めてのシネマスコーレで、とても不思議な気分。今日は皆さんの大切な時間を頂いたが、心に必ず届く映画だと確信している」とあいさつ。横尾監督は「若松監督の映画館での公開は恐れ多い気持ちもあるが、とてもうれしい」と笑顔を見せた。
横尾監督自身の半生をモデルにした本作。監督は「子どもの頃、母から聞いた『父を恨んでいる』という言葉に衝撃を受けたことがあり、そこをベースにして物語を作っていった。回想シーンも僕が覚えている父の断片で作っている」と話す。
演じた役について井浦さんは「亮太は横尾監督の分身のような役。作品については俯瞰(ふかん)で見られても、亮太に関しては主観で見てしまうはず。監督が描く亮太とは違うものも生んでいかねばという思いがあった。目の前に監督の存在という答えがあるが、答えの奥にある本人が気付いていないことを掘り起こしていった」と話す。
監督は「クライマックスは考えてあったが、きっとそうならないだろうと思って現場に入った。タイトルの『こはく』は、自分では気付いていない、心の中に固まっている温かい思い出のこと。意識的、無意識的に自分で蓋をして現場に入っていた僕の心を、井浦さんが開けてきた」と振り返る。井浦さんは「監督にとっては、映画を撮るだけでも大変なのに、撮りながら自分と向き合わざるを得ない状況になり、きつかったと思う。映画からにじみ出る温かさ、優しさ、柔らかさは、監督そのまま。苦しさ、悲しさもさらけ出されている」と話す。
共演した大橋さんについて井浦さんは「僕は普段、自分を不器用だと言っているが、僕よりも不器用な人。その不器用な人が心を込めて懸命に演じている姿が、お兄ちゃんそのものだった。映画を見る人には必ず伝わるはず」と絶賛する。監督は「クライマックスのシーンでの大橋さんはすごかった。僕も撮影しながら号泣してしまい、カットの声を掛けるのを忘れてしまった」と話す。
観客からは印象的なシーンでの表情の演出に対する質問があり、監督は自分の幼少期のエピソードを交えて丁寧に撮影時の狙いについて説明した。
最後に2人は観客の写真撮影に応え、拍手に送られながら映画館を後にした。