名駅の映画館「シネマスコーレ」（名古屋市中村区椿町8、TEL 052-452-6036）で6月2日から、若松孝二監督の映画「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」と「海燕ホテル・ブルー」の2作品が同時公開される。公開を前に若松監督と出演の井浦新さんが会見を行い、作品の見どころを語った。

　「11.25自決の日－」は、1970（昭和45）年に防衛庁内で衝撃的な割腹自殺をした作家・三島由紀夫と、三島由紀夫が結成した「楯の会」の若者たちの魂の軌跡をつづった物語。同作は、日米安保闘争からあさま山荘へ向かう若者たちを描いた「実録・連合赤軍　あさま山荘への道程」（2007年）、太平洋戦争で四肢を失った帰還兵と妻を描いた「キャタピラー」（2010年）に続く、「昭和3部作」の完結編。井浦さんは、主演の三島由紀夫役を演じた。

　三島由紀夫を題材にした映画は「連合赤軍－」の撮影時から考えていたという若松監督。「当時、雪山を進むシーンを撮っていて、やはり昔の若者たちはすごいなと感じた。きっと三島さんと楯の会もすごい人たちだったのだろうと思ったのが映画化の始まり」と話す。「当時の若者の視点で三島さんを描いた。その方が彼の人間像が鮮明に浮き彫りになってくる」

　また、「今までにない新しい三島像を作ったという感覚はない」とも。「多くの人の三島論があり、三島さん本人が『憂国』などで描いた考えなどもある。私も客観的に調べたけれど、三島さんの心までは分からない。他の人の描く三島像とどちらが正しいかは分からないが、この映画は半分くらい三島さんの気持ちになっていると思う」

　井浦さんは三島由紀夫を演じるにあたって、芸名をアルファベット表記のARATA（アラタ）から本名の漢字名に変えた。現場ではシンプルに監督を見つめ、撮影中も、その合間も監督の一言一言を拾っていったという。「三島さんが自決したときは、僕自身はまだ生まれていなかったので、彼が何を思っていたかを頭で考えることは放棄した。一番大切にしたのは、監督も大事にしている『心』。実在の三島さんを追って外見などを近づけていくよりも、台本としっかり向き合って、監督が仕上げた三島像を自分の血肉にしていくことで心を寄せていった。この作品にかける監督の思いに自分を近づけていくことが、三島さんの『志』に近づいていくことだと思った」と振り返る。

　昭和3部作の完結編と銘打たれているが、若松監督の昭和時代への思いは深い。「昭和という時代で表現したいことはまだまだある。もうちょっと描いてみようかなと思っている。次回作は昭和を代表する芥川作家・中上健次の『千年の愉楽』。さらにもう一本、昭和の一番悲惨な時代も描いてみたい」と意気軒高だ。

　「海燕ホテル・ブルー」は、ハードボイルド小説の旗手で、直木賞作家・船戸与一さんの同名小説が原作。刑務所を出所した男がかつて自分を裏切った仲間の下を訪れるため船に乗り込むが、男の物語は次第に夢とも現実とも判然としない不思議なゆがみを漂わせ始める。井浦さんは、地曳豪さん演じる主人公の藤堂を訪ねてくる元囚人仲間・富谷役。

　原作者・船戸さんは冒険小説の第一人者。作品のスケールの大きさや辺境の戦場を舞台にした物語などで、これまでほとんど映像化されることがなかった。「船戸さんが原作を全部あげるから好きに映画にしていいよと言ってくれた。自分のやり方で原作をめちゃくちゃにした感じ。スタッフには好きなように遊ばせてくれと言って作った。昔、私が撮った『天使の恍惚』や『聖母観音大菩薩』などの続編、第2弾みたいなもの。あの時代の私の映画を好きな人には気に入ってもらえる」と笑う。

　「この現場でこれが『若松組』なんだと感じることができた」と井浦さん。地曳さんや、前作「キャタピラー」主演の大西信満さんなど、続けて出演している俳優陣も多い。「皆さん『連合赤軍－』から参加している俳優たちで、お互い監督の下で勉強させてもらったメンバー。僕ら『俳優部』にとっては、昭和の3部作を経て若松組で学ばせてもらった芝居の一つの集大成になった。監督がこの作品に関しては遊ぼうと言ってくれたので、学んできたことを解放して、みんなが自由に芝居をした。映画で遊ぶというかけがえのない体験をさせてもらった」と話す。

　公開に向けて「どちらも違った形で見応えがある。ぜひとも両方見てください」（若松監督）。「全く違う作品ですが、監督の表と裏を表しているような映画。若松監督の頭の中、世界観を思い切り体感できるはず」（井浦さん）と映画の成功を祈った。