名駅の映画館「シネマスコーレ」(名古屋市中村区椿町8)で7月5日、福島で生きた四世代の家族を描く映画「あいときぼうのまち」が公開される。公開に先立ち、来名した菅乃廣監督が作品の見どころを語った。
同作品は福島を舞台に原子力発電所建設や東日本大震災など多くの出来事に翻弄(ほんろう)された家族の物語を四世代にわたって描く人間ドラマ。脚本は、同館設立者の若松孝二監督の弟子で、昨年「戦争と一人の女」を監督した井上淳一さんが担当した。
1945(昭和20)年、学徒動員された英雄ら中学生は、福島県石川町でウラン採掘をさせられた。終戦後、福島県双葉町で働いていた英雄は、1966(昭和41)年の原子力発電所建設に反対し、村の人々から孤立していく。娘の愛子も働く場所を失い、恋人・健次との関係が壊れていく。2011年、愛子と健次は再会し、互いの思いを語り合う。そして3月11日が訪れる。
菅乃監督は福島県出身で同作が監督第1作。「もともとはシナリオライターで、プロデューサーとして映画の企画などもやっていたが、監督をやりたいと意識したことはなかった。3.11とその後の原発が爆発した映像を見て、僕が福島県出身なこともあり、原発のことで映画を作りたいという衝動が生まれた。この作品は自分で監督をしなければならないと感じた」と製作に臨んだ経緯を振り返る。
映画は四世代70年もの長さの物語で、原子力に翻弄される福島の人々を描いている。「3.11はもちろん、戦争中に石川町でウランを掘っていたことも、昭和40年代に原発用地買収、建設で住民が辛い思いをしたことも本当。この映画は事実に基づいたフィクション。6時間くらいになると思ったが何とか2時間にできた。脚本の井上さんは大変な作業だったと思う」
双葉郡は20キロ圏内で撮影に入ることができないため、ロケはいわき市で行った。「撮影は20日間くらいで、そのうち14日がいわき市でのロケ。各時代の出演者が入れ替わり撮影した。2011年の愛子の孫娘と青年を演じる若い役者二人は、津波のあった場所などを見て何かを感じてほしかったので、14日間ずっといわき市に滞在してもらった」
最後に監督は「この映画は福島県の目線で演出をすることを意識した。福島は表だって怒りを表現する風土ではない。でも決して怒っていないわけではない。東京で試写を見た人が、静かな怒りが伝わってきたと言ってくれた。そういうものを見た人たちに感じてもらえたら監督として本望」と来場を呼び掛ける。