特集

名古屋の台所「柳橋中央市場」をマルナカ社長がご案内!
旬の味覚と現代の食事情〈春編〉

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食の豊かさを実感する鮮魚コーナー

店頭には春の食材が次々に登場し始め、市場の雰囲気も心なしか華やいで感じられる。まずは柳橋中央市場でもっともにぎわいを見せる鮮魚のコーナーへ。

安藤社長におすすめを聞くと「春はやっぱり貝ですね」という返事。この日の市場にも、地元産の大小のアサリに、トリガイなどが並んでいた。店の大将いわく「時季的に今日のはまだ小さめですが、アサリはこれから身も大きくなって、食べ頃ですよ。ただちょっと、今年は日間賀の貝は身入りがあまりよくないかな」とのこと。そう、同じ食材でも、時季や産地によってモノは全く異なってくる。こんな風にプロのアドバイスが聞けるのは、やはり市場ならではの魅力だ。

(写真上=愛知・三河産のアサリ。アサリには貧血防止に効果のある鉄分や、ビタミンB、カルシウム、カリウム、亜鉛といったミネラルも豊富だ)(写真下=春~初夏にかけて旬を迎えるシャコ。水から揚げるとすぐに味が落ちてしまうため、写真のように新鮮なうちにボイルされたものか、生きたまま茹でるのが基本)

春の魚で言えば、まず名前があがるのが初ガツオ。カツオは春から夏にかけて日本近海にやってくる季節回遊魚で、“初ガツオ”は2月頃に日本の南の海に顔を出す。

その後、アジやイワシなどのえさをたっぷり食べて成長しながら日本海を北上し、秋にUターンしてくるのがいわゆる“戻りガツオ”だ。「戻りガツオは脂が乗って濃厚ですが、初ガツオはまたそれとは異なり、さっぱりした味わいが魅力です。全体的に春の魚は、淡白で軽い味わいのものが多いですね」と安藤社長。たとえば初ガツオなら、たたきで食べるが定番。その繊細な味わいを活かした、シンプルな調理がおすすめだ。

(写真上=和歌山・紀州で水揚げされた初ガツオ。日本海を北上することから別名“上りガツオ”とも呼ばれる)写真下ホタルイカは、産卵のため浮上してきたところを漁にかける。体長67センチで、旬は45月頃)


その他、佃煮にされることが多いコウナゴ(イカナゴ)や、ワカサギの仲間で、やや大ぶりな海水魚のチカ、またほぼ地元で消費されてしまうため、出回ることの少ないという北陸のガスエビなど、スーパーではなかなかお目にかかれない魚介も満載。


安藤社長いわく「市場にいる私でも、未だに覚えきれませんからね。それほど豊富な種類の魚介を、刺身、焼き、揚げ、煮物、干物…といろんな風に食べるのって、世界でも日本くらいのもんじゃないですか」。カツオのように季節によって異なる味を楽しんだり、中には同じ魚でも、卵・子ども・大人と生長過程により全く別の調理法で食べられているものも。鮮魚コーナーだけを見ても、日本の食文化は本当に豊かであることを再認識させられる。

(写真上=ナマのコウナゴ(イカナゴ)と、佃煮。佃煮は特に「くぎ煮」と呼ばれ、兵庫県が発祥と言われている)(写真下= 北陸ではおなじみというガスエビ。味は甘エビに似て、ほんのりした甘みが広がる)

露地もの、天然ものが並び始める野菜&フルーツ

取材時、野菜売り場の店頭に並んでいた春の食材は、新じゃが、そら豆、菜の花、アスパラ、たけのこ、山菜など。安藤社長によれば「春野菜も一部、温室栽培で冬の早い時季から出ていますが、これから先は天然ものが並び始めます」とのこと。食材によって違いはあるが、基本的に旬の露地ものには栄養が豊富。また春の山菜やたけのこ、菜の花などには苦みやアクが多く含まれ、人間が冬の間に体内に溜めた毒素を排出してくれると言われている。季節の食材には、その時々に人間が必要とする栄養素や機能がきちんと含まれているのだ。

(写真上=この日店頭に並んでいたものは、左が京都産で、右が桑名産。どちらの産地も、人気の高いブランドたけのこだそう)(写真下=ズラリと並ぶ山菜類。食卓に一品加わるだけで、グッと春気分が盛り上がる)

果物店で聞いたこれからのおすすめは、地元愛知県産のイチジクや、宮崎産の人気のマンゴー、そしてスイカ。スイカは夏のものでは?と尋ねると、お店の人は「皆さん、きっとそう思っているでしょう。でも実は、梅雨入り前の5月が一番おいしいんですよ。糖度が乗っていて甘いんです」と話してくれた。何気ない会話の中から、こんな発見があるのも市場の醍醐味だ。(写真=愛知県は、全国一のいちじくの産地。特に盛んな安城・碧南市をはじめ、各地で栽培されている)

風味豊かな新海苔をぜひ

海藻から作られる加工物の代表格といえば、海苔。乾燥させたものだから年中味は同じ…かと思いきや、「今が新海苔の季節ですよ」と海苔店のご主人。そう、この時季の店頭はまさに新海苔一色となる。新海苔は秋の栄養豊富な時期に収穫・加工されるため、風味豊かでやわらかな舌触りが特徴。脇役に扱われがちな海苔だが、こだわって選べば、より食の楽しみが広がりそうだ。

(写真=春の行楽弁当や手巻き寿司に、新海苔を試してみてはいかが?)

いま、私たちに必要なこと

市場を歩いていると、食材を通して季節を直に感じ取ることができる。そしてこれこそが、現代人に欠けていることだと安藤社長は言う。「夏のものは夏に、冬のものは冬に食べる。昔はそれが当たり前でした。今では輸入品や栽培技術の発展により、いいか悪いか年中何でも手に入るようになって。食べ物や自然に対するありがたみも薄れている気がします」。

食の豊かさ=人生の豊かさ

では、現代に生きる私たちはこれから食とどう向き合って行くべきなのか。「今、世間ではやたらと“食育”というキーワードが取り上げられていますが、そんなに大げさで難しいものじゃないんです。私が考える“食育”とは、子どもたちに家庭で本物の味を食べさせること。

たとえば味噌汁を作るにしても、顆粒の簡易だしではなく、時には鰹節を削るところから挑戦してみる。バンズと国産牛100%のミンチ肉を買ってきて、オリジナルのハンバーガーを作る。またおやつは既製品ではなく、手作りのドーナツやふかしイモを与える…など、本当に何でもいいんです。もちろん、毎食では手間がかかりすぎますし、いい食材はそれなりに値も張ります。だからいつもとは言いません。余裕のある時だけでいいので、子どもと一緒に、楽しみながらやるのがポイント。食に触れ、自らも手伝うことで、食に対する興味や感謝の気持ちが芽生えます。また本物の味を知ることで、味覚も発達します。皆さんも子どものころに体験した、懐かしい味の思い出ってありますよね。幼少期の食の体験は、一生記憶に残ります。私は、食生活の豊かさ=人生の豊かさだと思うんです」。

(写真上=「どんな風に食べたらおいしいだろうか」など、想像をかきたてる個性豊かな食材たち)(写真下=早朝から活気あふれるマルナカ食品センター。レストランや和食店などの業務用がメインだが、もちろん一般利用や、子ども連れの入場もOK)

今後の柳橋中央市場が担う役割

東京は築地、大阪は黒門市場など、全国には有名な市場がたくさんあるが、これほどの大規模で、誰でも入場でき、さらに名古屋駅からすぐという恵まれた立地は、ここ柳橋中央市場ならでは。それだけに、安藤社長は地元の人にもっと活用してほしい、と話す。「私どもマルナカ食品センターでは、どう買い物したらいいかよくわからない、という人のために毎週見学ツアーを開催しています。また今後は、見学ツアーで紹介した厳選食材を集め、職人に寿司を握ってもらったり、時には市場を飛び出し、おいしい食を求めて各地を訪れる日帰りツアーなども計画中。もっとたくさんの人に、いろんな食の楽しみ方を提案していきたいと考えています」。(写真=いつも通り各店舗に元気よく声を掛けながら、 市場を案内してくれる安藤社長。気付いた点や改善点は積極的に店舗に伝え、店と二人三脚でより良い市場作りを目指している)

生きていくために欠かせない“食”。しかしもはや当たり前すぎて、ついおろそかにしたり、食に対する感謝の気持ちを忘れてはいないだろうか。たとえば、いつもより調理にひと手間かけてみる、食材にこだわってみる、生産者の声に耳を傾けてみる。それだけで、毎日の食も人生も、もっと楽しく、豊かになるはず。

(写真=いつも通り各店舗に元気よく声を掛けながら、市場を案内してくれる安藤社長。気付いた点や改善点は積極的に店舗に伝え、店と二人三脚でより良い市場作りを目指している)

マルナカ食品センターマルナカセンタービル本館/名古屋市中村区名駅4-15-2
マルナカ第二ビル/名古屋市中村区名駅4-16-23
TEL 052-581-8111
営業時間は4時~10時ごろ、営業日はホームページ参照

※年末は~12頃まで営業予定

ライターPROFILE食&農ライター 中西沙織(なかにしさおり)
元エリア情報誌の編集&ライター。農業学校を卒業し、現在“食・農・くらし”にまつわる取材、原稿執筆を中心にフリーランスで活動中。

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