参加型写真展「NENアーカイブス 2023」が現在、名古屋駅西の「ホリエビル」(名古屋市中村区椿町12)2階ギャラリーで開催されている。
トークイベント「内からのまなざし、外からのまなざし」。(左から)林浩一郎さん、堀江浩彰さん、杉山雄彦さん、長坂英生さん、鬼頭直基さん。
昨年に続いて2回目。1階から2階に続く階段の壁とギャラリースペース内に、東海道新幹線開通に沸く1960年代の様子を収めた写真約100点を展示する。写真の多くは、当時「駅裏」と呼ばれていた名古屋駅西に暮らした杉山雄彦さんが、父と共に記録し続けてきた資料から選んだもの。
今回は写真に加え、かつて名古屋市を中心に販売されていた夕刊専門紙「名古屋タイムズ」に1967(昭和42)年8月15日から10月13日まで掲載された連載記事「駅西」を、会場奥の壁面に展示する。壁面は「週刊『名古屋タイムズ』」と見立て、1週間ごとに展示記事を入れ替える。同写真展を企画したホリエビル代表で「屋上とそら」社長の堀江浩彰さんは、「前回と同様、来場者が写真に写る風景に関する情報や記憶を付箋に書いて貼る、といった参加型の形式を採用しつつ、内容のパワーアップを目指した」と話す。
8月19日には、「内からのまなざし、外からのまなざし」と題したトークイベントが開かれた。同写真展を堀江さんと共に企画した名古屋市立大学人文社会学部准教授の林浩一郎さんが司会を務め、名古屋タイムズアーカイブス委員会代表の長坂英生さんと元名古屋タイムズ編集局長の鬼頭直基さん、堀江さんが登壇。聴講者の一人として参加した資料提供者の杉山さんを交えながら、「名古屋タイムズ」の概要や特色、印象に残る「駅西」の記事、60年代の名古屋駅西エリアの状況などについて話した。
記者時代、駅西エリアを「外側」から捉えてきた鬼頭さんと長坂さんは「街が抱える情勢を踏まえながら記事を書いてきたと思う。少なくとも優れた記録であることは間違いない」と振り返った。
杉山さんが所有する写真の撮影に関する裏話に触れる場面も。鬼頭さんの「高い場所から見下ろすような写真はどのようにして撮影していたのか」という質問に対して、「今と違い高いビルなどはなく、家主に頼み屋根に上らせてもらって撮影していた」と杉山さん。「当時私は10代で、父から『あそこに上れ』と言われることもしばしばあった」と笑みを浮かべた。
東海道新幹線開通という大規模な都市開発プロジェクトに際し、過渡期のさなかにあった駅西に暮らした杉山さんは、「この街は昼と夜の『明るさ』が全く異なっていた。今でも、例えばあるにおいを嗅ぐと当時の情景に引き戻されることがあるなど、多くの記憶が残っている。国籍もバックグラウンドもさまざまな人が多く暮らす駅西に対して差別的な目はあったが、駅西の中では差別はなかった。助け合いの関係性が息づいていたと思う」と回想した。続けて「父も私も記録を続けるものの、多くの人に目にしてもらう未来は想像していなかった。写真などの街に関する資料は、記録していた人が亡くなるとともに失われてしまうことが多い。林先生に資料を提供した際、『神様は見てくれていたのだな』とうれしく感じた」と目を細めた。
終盤、林さんは「今後も写真展の開催や聞き取り調査などの活動を続け、ゆくゆくは書籍化したいと考えている」と話した。堀江さんは「数年後にリニア中央新幹線が開通する。人生で新幹線開通を体験できる機会はなかなかないもの。変貌を遂げる駅西を拠点に、活動を続けていきたい」と意気込んだ。
開館時間は11時~19時。日曜・祝日休館。9月2日まで。