プレスリリース

加齢に伴う「運動神経の変性」の程度が、高齢者の筋力の個人差を説明することを解明

リリース発行企業:学校法人梅村学園 中京大学

情報提供:

 中京大学スポーツ科学部の渡邊航平教授の研究グループは、同研究室所属の日本学術振興会特別研究員PDの國木壮大氏を筆頭著者とした論文において、高齢者を対象に運動単位リモデリングの指標と、筋力との関連性を調査し、運動単位リモデリングの程度が大きい高齢者ほど筋力が低いことを明らかにしました。
 運動単位リモデリングは、筋力を発揮する際に不可欠な要素である運動単位の構造的な再編成を示しており、運動神経の死滅や脱神経などの加齢に伴う運動神経の変性が関与しています。これは脱神経した筋線維を救済するための生理学的適応であると従来から考えられてきました。しかし本研究によって運動単位リモデリングの程度が大きい高齢者ほど筋力が低下していることが明らかとなり、運動単位リモデリングにともなう筋線維の救済は加齢に伴う筋力低下を十分に防ぐことはできない可能性を示しています。運動単位リモデリングを促すことだけでなく、そもそも脱神経を抑制することが高齢者の運動機能維持に重要である可能性が考えられます。また本研究で用いた運動単位リモデリングの指標は、5分~10分程度で非侵襲的に測定可能であり、高齢者の運動機能評価における生理学的バイオマーカーとして今後広く普及できる可能性も秘めています。 



背景
 加齢に伴って筋力は低下しますが、高齢者の筋力には大きな個人差があります。筋肉の量は筋力を維持するために重要であると古くから考えられてきましたが、高齢者の筋力は筋肉量だけでは十分に説明することはできません。ヒトが力を発揮するためには、運動指令を伝える運動神経とそれによって支配される複数の筋線維からなる運動単位を動員することが必要不可欠です。この運動単位は加齢に伴って減少してしまいます。この過程では、運動神経が死滅し、筋線維から神経支配が外れる脱神経ということも起こります。脱神経した筋線維はそのままでは消失してしまいますが、近くにある別の運動神経から枝が伸びてきて再び神経支配される再神経支配が生じることで、筋線維の消失が免れることが知られています。この一連の過程のことを運動単位リモデリングと呼び、脱神経した筋線維を救済し、高齢者の運動機能を維持するための重要な生理学的適応と考えられてきました。しかし運動単位リモデリングによって遅筋線維の数が増えることや、神経から筋肉への指令の伝達が不安定になってしまうということも知られており、運動機能にポジティブな影響ばかりではない可能性も考えられます。運動単位リモデリングの程度には年齢を考慮した上でも非常に大きな個人差があり、この個人差が運動機能においてどのような意味を持つのかは十分に明らかになっておりませんでした。

研究内容
 閾値電気緊張法と呼ばれる運動単位リモデリングを非侵襲的かつ短時間で評価する手法を用いて、60歳以上の地域高齢者49名の短母指外転筋の運動単位リモデリングの程度を示す指標を算出しました。閾値電気緊張法は筋委縮性側索硬化症といった進行性の神経筋変性疾患患者を対象に用いられている手法で、短母指外転筋は特によく用いられる筋です。短母指外転筋の筋力としてはピンチ力を測定しました。運動単位リモデリングの指標とピンチ力との関連性を偏相関分析を用いて検討しました。また性別の影響を考慮するために、男女別に分けた探索的な解析も行いました。

研究成果
 運動単位リモデリング指標と筋力との間には有意な相関関係が認められました。指標によって正負が異なりますが、一貫して運動単位リモデリングの程度が大きい高齢者ほど筋力が低く、運動単位リモデリングの程度が少ない高齢者ほど筋力が高いという結果が得られました。これは加齢にともなって脱神経が生じ、再神経支配によって筋線維が救済されたとしても、必ずしも筋力が高く維持されるわけではない可能性を示しています。本研究から運動単位リモデリングを評価することは、高齢者の運動神経の加齢に伴う変性の程度、すなわち、「運動神経の健全性」を評価することに繋がり、運動機能の個人差を反映する生理学的バイオマーカーとなり得ることが示唆されました。また本研究で用いた指標は、5~10分程度の短時間で、身体への負担が少ない方法によって測定できるため、今後、高齢者の運動機能低下の早期把握などに広く応用できる可能性があります。性別を分けて分析した探索的な解析では、これらの有意な関連性は男性においてのみ認められ、特に男性において感度の高い指標となり得ることが探索的に示唆されました。

今後の展開
 これまで上記に挙げた筋量に加えて、我々の研究室では運動神経の活動にも焦点を当て研究してきましたが、本研究では運動単位リモデリングといた運動神経の形態もまた筋力に関連することを示しました。今後は筋量、運動神経の活動、運動神経の形態(運動単位リモデリング)がそれぞれ独立して筋力に影響を与えるのか、相互に関連しているのか、といったことや、より加齢によって顕著な影響を受ける下肢の筋(前脛骨筋や腓腹筋)にも研究を広げていくことで、高齢者の運動機能低下のメカニズムを包括的に明らかにすることを目指します。最終的には、得られた知見を高齢者の運動機能を維持・向上させるための効果的な運動・トレーニング戦略の開発につなげていきます。

掲載論文
題目:Association between motor unit remodeling and inter-individual variability in muscle strength of older adults.
著者:Masahiro Kuniki? ? ,Kaito Igawa?, Yu-ichi Noto?, Ryosuke Takeda?. Kohei Watanabe?
所属:? Laboratory of Neuromuscular Biomechanics, School of Health and Sport Sciences, Chukyo University, Toyota, Japan
   ? Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science, Chiyoda-ku, Japan
   ? Graduate School of Health and Sport Sciences, Chukyo University, Toyota, Japan
   ? Department of Neurology, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto, Japan
誌名:Journal of Applied Physiology
公表日:2026年9月11日 (Accepted date) / 2026年9月16日オンライン版掲載

本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました
・日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究B「使って残そう運動神経:プレシニア・シニアにおける運動習慣が運動神経数に及ぼす影響」(研究代表者:渡邊航平)
・中京大学戦略的研究「運動神経と骨格筋という 2 つの観点から運動パフォーマンスを評価するシステムの構築と応用」(研究代表者:渡邊航平)


お問い合わせ先
研究者:中京大学 スポーツ科学部/中京大学大学院 スポーツ科学研究科 ・教授 渡邊航平
TEL:0565-46-1270(中京大学スポーツ科学部事務室)
メールアドレス:wkohei@lets.chukyo-u.ac.jp

名駅経済新聞VOTE

名古屋城と言えば?

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
ALL