特集/コラム
「壊れない、擦り減らない部品を作る技術で、数々のコスト削減を達成−取得特許25件超のワケ−」不二機販 社長 宮坂四志男さん
ブラスト機械を使用して、機械部品、切削工具などの耐久性向上の加工処理ができるWPC処理を開発し各種製造業で幅広く利用されている。更にWPC処理によってセラミックなどにチタン粉末を吹き付けたPIPチタンは「暗いところでも効果を発揮できる高効率自然触媒」として、薬品を使わずに脱臭や、空気清浄、食品や油の酸化防止ができるという事例があがり、産業、医療、環境の各分野で注目を集めている。
「営業に向かない」と言われたから営業をやろうと思った
−高校を卒業してからは何をされていましたか。
地元の富山県で高校を卒業して、名古屋市守山区の陸上自衛隊に入隊しました。自分は気の短い性格だと自覚していましたから、このまま会社に入っても勤められないと思い、精神鍛錬の為に入隊したのです。そして3年後に自動車部品の工作機械を作っている会社の営業職を希望して入社しました。
−どうして、営業を希望したのですか。
営業をやろうと決めた一番の理由は、「お前の性格で、営業などできるはずがない。」と自衛隊の上官に言われたからです。だから「意地でもやってやる!」と思いましたね。無理だと言われると、余計にやってみようと思う性格なんです(笑)。
−営業に入ってからはどうでしたか。
初めは全く売れませんでした。工作機械の販売営業だったので、工場を回る毎日だったのですが、自分の知識が浅くてお客さんに勧めることができなかったからです。同僚や事務の女性からは「もっと要領よく、適当に仕事をすればいいのに。」と言われましたが、自分の知らないものをごまかして売ることが出来ない私は、商品の売り込みより、まずはお客さんの作業所を見せてもらうことから始めました。お客さんの困っている点を聞いてから、機械の設計図を見たり自分で考えたりして解決できる方法を探し、「これならできるはずだ」と確信してから、設計者に依頼して機械を作ってもらっていました。私がいろいろ注文をするから設計者たちは私を避けていましたけどね(笑)。2年後に退職する時には大卒の先輩たちを抜いて営業職で給料も成績もトップになっていました。
ブラスト機械との出会いが独立へのきっかけだった
今まで働いていた会社を辞め、しばらく他の会社でも同じような機械の営業をしていたのですが、取り扱える商品を増やしたくて、ブラスト機械(擦りガラスなどをつくる吹き付け作業ができる機械)に目を付けました。まだ開発して間もない機械なので競合相手が少なかったため、前から交流があった製造元に「私にも売らせてほしい」と頼みました。すると、「今の会社を辞めて独立したら機械を卸す」と言われたのです。しばらく悩んだ結果、私は独立することを選択しました。そして借家の玄関に机を置き、妻に電話番をさせて新たなスタートを切りました。
ブラスト機械は、ガラスの粉を吹き付けて塗装をとったり、逆に塗装をよく密着させるために正面をざらざらにしたり、製品の表面にできたサビを削ったりするために使われていました。初めて機械の説明を聞いた時は、正直言って「あまり利用価値のない機械だな」と感じましたが、今まで売ってきた工作機械は世の中に出回りすぎていたから、ブラスト機械の利用価値を高めて多くの人に使ってもらえる方法を探そうと思ったのです。
平面を凹凸に変えた!−全く逆の発想が大きなコスト削減を生んだ
独立して2年経った頃、航空機を作っている会社から「部品を作ってもらっても半分以上が不良品で、コストがかかりすぎるから何かいい方法がないか」と相談を受けました。部品の仕上げにメッキコーティングをするのですが、航空機の油圧に関わる部品なので、目に見えないわずかな傷があるだけで不良品になってしまうし、合格してもすぐメッキがはがれてしまって長く使えないそうなのです。当時の部品製作会社は、メッキがしっかり密着するように、部品の表面を何度も磨いて真っ平らにすることに力を入れていました。
そこで私は、全く逆の発想でブラスト機械を使って表面に均一な凹凸をつけようと考えました。大変精密な部品ですから、普段ブラストで使うよりもとても小さい、体積が約3000分の1の粒子を打ち付け、その上からメッキコーティングをしました。すると、試作で作った部品の不良がほとんどゼロになったのです。更に部品の寿命も従来の3倍になり、依頼先からも大変喜ばれ、即決で機械を購入していただけるようになりました。
−新しい利用法を見つけたということでしょうか。
ブラスト機械の新しい利用法として、皆さんが喜んでくれましたが、私は単純に喜ぶことができませんでした。「偶然に出来た」だけでは納得がいかなくて、知り合いの研究者に微粒子を打ち付けた物質の表面を研究してもらうことにしました。
研究結果から、微粒子を高速で打ち付けると、その衝撃で物質の表面が急熱、急冷され、組織が再結合している事がわかりました(図1参照)。再結合で、元素同士の隙間が埋まり、錆びや破損に強くなるのです。航空機部品の強度が上がったのは、メッキの密着がよくなっただけではなく、物質表面そのものの強度が上がったからだったのです。
また、強度以外にも無数の均一な凹凸面は、平面に比べ摩擦抵抗が約3分の1以下になることがわかりました。この処理を施した部品を機械の接続部分などに使用すると、少ないエネルギーで長く機械を動かせることが可能になったのです。これは当時のブラスト技術の利用法から見ると、重大な発見だったので、通常のブラスト技術とは違うことをアピールできるよう、「WPC処理」と名前をつけました。
−「WPC処理」についてもう少し詳しく教えていただきたいのですが。
WPCは、「Wide Peening Cleaning(幅広く 打ち付けて 清掃する)」と「Wonder Process Craft(不思議な 驚くべき 工法の特殊技術) 」の頭文字から名付けました。昭和53年に開発したのですが、皆さんに広く知られたきっかけは、2002年に最多販売記録を上げた「HONDA FIT」のピストン部分にも使われたことですね。それまではピストンの表面に潤滑剤を塗布する事が主流でしたが、「FIT」は「WPC処理」により、潤滑剤(二流化モリブデン)をピストン内部に打ち込む処理を施してあります。その為、長期間潤滑剤を切らすことなく、摩擦抵抗を最小限に抑える事が出来るので、低エネルギーでエンジンを動かすことが可能になったのです。この処理により5%の燃費向上を実現し、お陰さまで現在では、多くの自動車部品にWPC処理が使われています。
不可能を可能へ−出来ないことに挑戦する価値
−現在熱処理方法や摩耗防止方法など加工技術で多くの特許を取得されていますがその秘訣は何ですか。
私は出来ないと言われているものをみつけると「ありがたい、私の出番が来た」と思うのです。若い頃「営業に向かない」と言われたから、どうしたらいいのか考えることが出来たように、できないと言われているものは世界中でまだ誰も成功していないから、挑戦する価値があるのです。だからやってもいないのに、常識で考えて「出来ない」と答えを出してしまっては、もったいないですよね。常識で不可能な事を可能にするから特許が取れるのではないでしょうか。大切なのは、まずやってみること、成功してから「なぜ成功したのか」を考えればよいのです。
−社長のこれからを教えてください。
私のこれからより、地球環境のこれからをよく考えていますね。私が生きているうちは良いかも知れないけれど、孫の時代になったらどうなっているのだろうと。だから今は自社の製品を利用して地球環境を改善する商品の研究をしています。中日本自動車短期大学とガソリンの質を向上させ燃費を良くすることに取り組んだり、水耕栽培の研究所と効率よく植物が育つ方法を考えたりしています。自分の会社や国の利益だけを考える時代はもう終わったのではないでしょうか。これからは世界中が協力して環境に良いものを生み出せる世の中に変わりつつあるのではと感じています。
不二機販聞手:メディアジャパン
代表取締役 宮崎 敬士
校正:梅田 和代
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