
「玉手箱」や「箱入り娘」といった言葉があるように、ものを収納する容器の一つである箱は、古代から現代にいたるまで、人々の生活や信仰・芸術に深く関わってきました。内容品の保護・整理・運搬といった実用性に加え、精緻な装飾や象徴的な意匠、そして蓋の表裏に記された箱書に至るまで--箱は時として、持ち主の想いを内に秘め、また時を越えて語るメディアでもありました。
本展は、作品の裏方として重要な役割を担ってきた箱を主役として取り上げる試みです。作品とともに護り伝えられてきた箱の機能と美しさ、そして文化財を未来へ伝える営みのなかで果たしてきた役割に、あらためて目を向けていただければ幸いです。
見どころ1.箱の歴史をたどる――箱のかたちと技術の歩み 箱の歴史は、植物の蔓や茎、皮などを編んだ先史時代の籠にまで遡ります。日本では、弥生時代から古墳時代にかけての木棺や石棺に四角い箱の古い例が見られ、平安時代以降は工具と技術の発達に伴い、木板を用いた箱が多様に展開しました。
今日の日本で広く使われる桐箱は、大きな木材を縦に挽き割る大鋸(おが)や、表面を平らに仕上げる台鉋(だいかんな)の普及を背景に、16世紀頃に誕生しました。箱の変遷から、日本のものづくりの歩みもたどることができます。

重要文化財 歌舞伎図巻 詞書 伝烏丸光広筆 二巻の内 下巻(部分)江戸時代 17世紀 徳川美術館蔵 前期展示 /画面上に様々な形態の箱が描かれ、古くから箱が人々の暮らしにあふれていたことがわかります
見どころ2. 護る、秘める、伝える、――箱が担ってきた役割
箱は中身を傷や汚れから護るだけでなく、整理や運搬にも役立ち、さらに中身が特別なものであることを示すなど、さまざまな役割を担ってきました。
特に、信仰の対象となる宝物を収める箱は、その神聖性を視覚的に示す荘厳(しょうごん)の役割を果たしたため、蒔絵などの華麗な装飾が施されました。また、箱に記された「箱書(はこがき)」は品物の由緒や伝来を教えてくれます。
モノをしまっておくだけではない、箱の役割。箱が私たちの身近にあふれているのも納得ですね。

?椈色塗合口拵および刀袋・刀箱・拵箱 (重要文化財「脇指 無銘 貞宗 名物 物吉貞宗」 附属) 江戸時代 17世紀 徳川美術館蔵 ※刀身・白鞘は不出陳 /尾張家の新当主が、家臣を前に、この刀を実見し、継承したことを確認して再度封印する儀式を行った

重要文化財 黒樂茶碗 銘 時雨 本阿弥光悦作 江戸時代 17世紀 名古屋市博物館蔵 /光悦茶碗の名品
重要文化財 黒樂茶碗 銘 時雨 本阿弥光悦作 [外箱]桐製四方桟蓋箱 蓋裏 /近代尾張の茶人・森川如春庵が16歳の頃、祖父に買ってもらったことを晩年に記している
見どころ3. 持ち主の美意識が映る、誂えの箱
大切な品のために、形や素材、意匠に心をくだいて誂えられた箱。そこには作品を守る工夫とともに、持ち主の好みや鑑識眼が表れています。とりわけ近代には、箱そのものも鑑賞の対象となりました。中身とあわせて箱を見ることで、品物が愛され、受け継がれてきた歴史に触れることができます。

青磁香炉 銘 千鳥 大名物 南宋~元時代 13~14世紀 徳川美術館蔵 /名物茶の湯道具ならではのたくさんの箱
刷毛目茶碗 銘 白波 朝鮮王朝時代 16世紀 岡谷家寄贈 徳川美術館蔵 /近代の茶人が誂えた華麗な仕立て

唐物丸壺茶入 銘 唐丸壺 片桐石州所持 元~明時代 14 世紀 個人蔵 初公開 /石州流の祖・片桐石州が持っていた、新発見の茶入
唐物丸壺茶入 銘 唐丸壺 個人蔵 [仕覆内箱] 桐製印籠蓋箱 蓋表 [茶入内箱] 杉製二方桟蓋箱 蓋表 /箱の蓋表には片桐石州自筆
見どころ4. 箱って美しい・・・
普段は作品に眼を奪われがちですが、作品を収納してきた箱も美しいのです。厳選された木材に、箱の職人による丁寧な仕事、あざやかな紐など、箱の細部一つ一つが見どころなのです。
モノの容器である箱を、美しく作り、大事にしてきた、日本の文化ってすごいですね。

唐物肩衝茶入 銘 宗無 大名物 [茶入内箱] 江戸時代 17世紀 徳川美術館蔵


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